、お柳《りう》が投《な》げた卷煙草《まきたばこ》の其《それ》ではなく、靄《もや》か、霧《きり》か、朦朧《もうろう》とした、灰色《はひいろ》の溜池《ためいけ》に、色《いろ》も稍《やゝ》濃《こ》く、筏《いかだ》が見《み》えて、天窓《あたま》の圓《まる》い小《ちひさ》な形《かたち》が一個《ひとつ》乘《の》つて蹲《しやが》むで居《ゐ》たが、煙管《きせる》を啣《くは》へたらうと思《おも》はれる、火《ひ》の光《ひかり》が、ぽツちり。
又《また》水《みづ》の上《うへ》を歩行《ある》いて來《き》たものがある。が船《ふね》に居《ゐ》るでもなく、裾《すそ》が水《みづ》について居《ゐ》るでもない。脊《せ》高《たか》く、霧《きり》と同《おんなじ》鼠《ねずみ》の薄《うす》い法衣《ころも》のやうなものを絡《まと》つて、向《むかう》の岸《きし》からひら/\と。
見《み》る間《ま》に水《みづ》を離《はな》れて、すれ違《ちが》つて、背後《うしろ》なる木納屋《きなや》に立《た》てかけた數《すう》百|本《ぽん》の材木《ざいもく》の中《なか》に消《き》えた、トタンに認《みと》めたのは、緑青《ろくしやう》で塗《ぬ》つたやう
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