な面《おもて》、目《め》の光《ひか》る、口《くち》の尖《とが》つた、手足《てあし》は枯木《かれき》のやうな異人《いじん》であつた。
「お柳《りう》。」と呼《よ》ばうとしたけれども、工學士《こうがくし》は餘《あま》りのことに聲《こゑ》が出《で》なくツて瞳《ひとみ》を据《す》ゑた。
 爾時《そのとき》何事《なにごと》とも知《し》れず仄《ほの》かにあかりがさし、池《いけ》を隔《へだ》てた、堤防《どて》の上《うへ》の、松《まつ》と松《まつ》との間《あひだ》に、すつと立《た》つたのが婦人《をんな》の形《かたち》、ト思《おも》ふと細長《ほそなが》い手《て》を出《だ》し、此方《こなた》の岸《きし》を氣《け》だるげに指招《さしまね》く。
 學士《がくし》が堪《た》まりかねて立《た》たうとする足許《あしもと》に、船《ふね》が横《よこ》ざまに、ひたとついて居《ゐ》た、爪先《つまさき》の乘《の》るほどの處《ところ》にあつたのを、霧《きり》が深《ふか》い所爲《せゐ》で知《し》らなかつたのであらう、單《たゞ》そればかりでない。
 船《ふね》の胴《どう》の室《ま》に嬰兒《あかご》が一人《ひとり》、黄色《きいろ》い
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