たびはだし》で、据眼《すえまなこ》の面《おもて》藍《あい》のごとく、火と烟の走る大道を、蹌踉《ひょろひょろ》と歩行《ある》いていた。
 屋根から屋根へ、――樹の梢《こずえ》から、二階三階が黒烟りに漾《ただよ》う上へ、飜々《ひらひら》と千鳥に飛交う、真赤《まっか》な猿の数を、行《ゆ》く行く幾度も見た。
 足許《あしもと》には、人も車も倒れている。
 とある十字街へ懸《かか》った時、横からひょこりと出て、斜《はす》に曲り角へ切れて行《ゆ》く、昨夜《ゆうべ》の坊主に逢った。同じ裸に、赤合羽を着たが、こればかりは風をも踏固めて通るように確《しか》とした足取であった。
 が、赤旗を捲《ま》いて、袖へ抱くようにして、いささか逡巡《しゅんじゅん》の体《てい》して、
「焼け過ぎる、これは、焼け過ぎる。」
 と口の裡《うち》で呟《つぶや》いた、と思うともう見えぬ。顔を見られたら、雑所は灰になろう。
 垣も、隔ても、跡はないが、倒れた石燈籠《いしどうろう》の大《おおき》なのがある。何某《なにがし》の邸《やしき》の庭らしい中へ、烟に追われて入ると、枯木に夕焼のしたような、火の幹、火の枝になった大樹の下《もと
前へ 次へ
全36ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング