つ、あれ見い。」
八
雑所先生は一息|吐《つ》いて、
「私が問うのに答えてな、あの宮浜はかねて記憶の可《い》い処を、母のない児《こ》だ。――優しい人の言う事は、よくよく身に染みて覚えたと見えて、まるで口移しに諳誦《あんしょう》をするようにここで私に告げたんだ。が、一々、ぞくぞく膚《はだ》に粟《あわ》が立った。けれども、その婦人の言う、謎のような事は分らん。
そりゃ分らんが、しかし詮《せん》ずるに火事がある一条だ。
(まるで嘘とも思わんが、全く事実じゃなかろう、ともかく、小使溜《こづかいだまり》へ行って落着いていなさい、ちっと熱もある。)
額を撫《な》でて見ると熱いから、そこで、あの児をそららへ遣《や》ってよ。
さあ、気になるのは昨夜《ゆうべ》の山道の一件だ。……赤い猿、赤い旗な、赤合羽を着た黒坊主よ。」
「緋《ひ》、緋の法衣《ころも》を着たでござります、赤合羽ではござりません。魔、魔の人でござりますが。」とガタガタ胴震いをしながら、躾《たしな》めるように言う。
「さあ、何か分らぬが、あの、雪に折れる竹のように、バシリとした声して……何と云った。
(城下を焼きに
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