だぶつ》、南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ》。」
 優《やさ》しくも学生は盲人《めしい》を扶《たす》けて船室を出《い》でぬ。
「どッこい、これから階子段《はしごだん》だ。気を着けなよ、それ危い。」
 かくて甲板《デッキ》に伴《ともな》いて、渠《かれ》の痛入《いたみい》るまでに介抱《かいほう》せし後《のち》、
「爺様《じいさん》、まあここにお坐り。下じゃ耐《たま》らない、まるで釜烹《かまうで》だ。どうだい、涼しかろ。」
「はい、はい、難有《ありがと》うございます。これは結構で。」
 学生はその側《かたわら》に寝転びたる友に向いて言えり。
「おい、君、最少《もすこ》しそっちへ寄ッた。この爺様《じいさん》に半座《はんざ》を分けるのだ。」
 渠《かれ》は快くその席を譲りて、
「そもそも半座《はんざ》を分けるなどとは、こういう敵手《あいて》に用《つか》う易《やす》い文句じゃないのだ。」
 かく言いてその友は投出したる膝《ひざ》を拊《う》てり。学生は天を仰ぎて笑えり。
「こんな時にでも用《つか》わなくッちゃ、君なんざ生涯|用《つか》う時は有りゃしない。」
「と先《まず》言ッて置《お》くさ。」
 盲人《
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