らぎ》の囁《ささや》くように、ちちろ、ちちろと声がして、その鳴く音《ね》の高低《たかひく》に、静まった草もみじが、そこらの刈《かり》あとにこぼれた粟《あわ》の落穂とともに、風のないのに軽く動いた。
麓《ふもと》を見ると、塵焼場《ちりやきば》だという、煙突が、豚の鼻面のように低く仰向《あおむ》いて、むくむくと煙を噴《ふ》くのが、黒くもならず、青々と一条《ひとすじ》立騰《たちのぼ》って、空なる昼の月に淡《うす》く消える。これも夜中には幽霊じみて、旅人を怯《おびや》かそう。――夜泣松《よなきまつ》というのが丘下《おかした》の山の出端《でばな》に、黙った烏《からす》のように羽を重ねた。
「大分|上《のぼ》ったな。」
「帰りますか。」
「一奮発《ひとふんぱつ》、向うへ廻ろうか。その道は、修善寺の裏山へ抜けられる。」
一廻り斜《ななめ》に見上げた、尾花《おばな》を分けて、稲の真日南《まひなた》へ――スッと低く飛んだ、赤蜻蛉《あかとんぼ》を、挿《かざし》にして、小さな女の児《こ》が、――また二人。
「まあ、おんなじような、いつかの鼓草《たんぽぽ》のと……」
「少し違うぜ、春のが、山姫のおつかわし
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