ところ》を郷《がう》屋敷田畝《やしきたんぼ》と稱《とな》へて、雲雀《ひばり》の巣獵《すあさり》、野草《のぐさ》摘《つみ》に妙《めう》なり。
 此處《こゝ》往時《むかし》北越《ほくゑつ》名代《なだい》の健兒《けんじ》、佐々《さつさ》成政《なりまさ》の別業《べつげふ》の舊跡《あと》にして、今《いま》も殘《のこ》れる築山《つきやま》は小富士《こふじ》と呼《よ》びぬ。
 傍《かたへ》に一|本《ぽん》、榎《えのき》を植《う》ゆ、年經《としふ》る大樹《たいじゆ》鬱蒼《うつさう》と繁茂《しげ》りて、晝《ひる》も梟《ふくろふ》の威《ゐ》を扶《たす》けて鴉《からす》に塒《ねぐら》を貸《か》さず、夜陰《やいん》人《ひと》靜《しづ》まりて一陣《いちぢん》の風《かぜ》枝《えだ》を拂《はら》へば、愁然《しうぜん》たる聲《こゑ》ありておうおう[#「おうおう」に傍点]と唸《うめ》くが如《ごと》し。
 されば爰《こゝ》に忌《い》むべく恐《おそ》るべきを(おう)に譬《たと》へて、假《かり》に(應《おう》)といへる一種《いつしゆ》異樣《いやう》の乞食《こつじき》ありて、郷《がう》屋敷田畝《やしきたんぼ》を徘徊《はいくわい
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