直江津《なほえつ》に達《たつ》し、海路《かいろ》一文字《いちもんじ》に伏木《ふしき》に至《いた》れば、腕車《わんしや》十|錢《せん》富山《とやま》に赴《おもむ》き、四十物町《あへものちやう》を通《とほ》り拔《ぬ》けて、町盡《まちはづれ》の杜《もり》を潛《くゞ》らば、洋々《やう/\》たる大河《たいが》と共《とも》に漠々《ばく/\》たる原野《げんや》を見《み》む。其處《そこ》に長髮《ちやうはつ》敝衣《へいい》の怪物《くわいぶつ》を見《み》とめなば、寸時《すんじ》も早《はや》く踵《くびす》を囘《かへ》されよ。もし幸《さいはひ》に市民《しみん》に逢《あ》はば、進《すゝ》んで低聲《ていせい》に(應《おう》)は?と聞《き》け、彼《かれ》の變《へん》ずる顏色《がんしよく》は口《くち》より先《さき》に答《こたへ》をなさむ。
無意《むい》無心《むしん》なる幼童《えうどう》は天使《てんし》なりとかや。げにもさきに童謠《どうえう》ありてより(應《おう》)の來《きた》るに一月《ひとつき》を措《お》かざりし。然《しか》るに今《いま》は此歌《このうた》稀々《まれ/\》になりて、更《さら》にまた奇異《きい》なる謠《うた》は、
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屋敷田畝《やしきたんぼ》に光《ひか》る物《もの》ア何《なん》ぢや、
蟲《むし》か、螢《ほたる》か、螢《ほたる》の蟲《むし》か、
蟲《むし》でないのぢや、目《め》の玉《たま》ぢや。
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頃日《けいじつ》至《いた》る處《ところ》の辻《つじ》にこの聲《こゑ》を聞《き》かざるなし。
目《め》の玉《たま》、目《め》の玉《たま》! 赫奕《かくやく》たる此《こ》の明星《みやうじやう》の持主《もちぬし》なる、(應《おう》)の巨魁《きよくわい》が出現《しゆつげん》の機《き》熟《じゆく》して、天公《てんこう》其《そ》の使者《ししや》の口《くち》を藉《か》りて、豫《あらかじ》め引《いん》をなすものならむか。
底本:「鏡花全集 巻四」岩波書店
1941(昭和16)年3月15日第1刷発行
1986(昭和61)年12月3日第3刷発行
入力:馬野哲一
校正:鈴木厚司
2000年11月9日公開
2007年2月11日修正
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