のうちに一人《いちにん》、誰《たれ》とも知らず恁《か》く叫ぶとともに、ばら/\と、左右に分れて逃げ入る。
木《こ》の葉《は》落つ。
木の葉落つる中に、一人《いちにん》の画工と四個の黒き姿と頻《しきり》に踊る。画工は靴を穿《は》いたり。後《あと》の三羽の烏皆|爪尖《つまさき》まで黒し。初《はじめ》の烏ひとり、裾《すそ》をこぼるゝ褄《つま》紅《くれない》に、足白し。
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画工 (疲果《つかれは》てたる状《さま》、※[#「てへん+堂」、第4水準2−13−41]《どう》と仰様《のけざま》に倒る)水だ、水をくれい。
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いづれも踊り留《や》む。後の烏三羽、身を開《ひら》いて一方に翼を交《か》はしたる如く、腕を組合《くみあわ》せつゝ立ちて視《なが》む。
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初の烏 (うら若き女の声にて)寝たよ。まあ……だらしのない事。人間、恁《こ》うは成りたくないものだわね。――其のうちに目が覚めたら行《ゆ》くだらう――別にお座敷の邪魔《じゃま》にも成るまいか
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