美しく輝くばかり。
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二の烏 恋も風、無情も風、情《なさけ》も露《つゆ》、生命《いのち》も露、別るゝも薄《すすき》、招くも薄、泣くも虫、歌ふも虫、跡は野原だ、勝手に成れ。(怪しき声にて呪《じゅ》す。一と三の烏、同時に跪《ひざまず》いて天を拝す。風一陣、灯《ともしび》消ゆ。舞台一時暗黒。)
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はじめ、月なし、此の時|薄月《うすづき》出《い》づ。舞台|明《あかる》く成りて、貴夫人も少《わかき》紳士《しんし》も、三羽の烏も皆見えず。天幕《テント》あるのみ。
画工、猛然として覚《さ》む。
魘《おそ》はれたる如く四辺《あたり》を※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みま》はし、慌《あわただ》しく画《え》の包《つつみ》をひらく、衣兜《かくし》のマツチを探り、枯草《かれくさ》に火を点ず。
野火《やか》、炎々《えんえん》。絹地《きぬじ》に三羽の烏あらはる。
凝視。
彼処《かしこ》に敵あるが如く、腕を挙げて睥睨《へいげい》す。
[#ここで字下げ終わり]
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画工 俺の画《え》を見ろ。――待て、しかし、絵か、其とも実際の奴等《やつら》か。
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[#地から2字上げ]――幕――
底本:「日本幻想文学集成1 泉鏡花」国書刊行会
1991(平成3)年3月25日初版第1刷発行
1995(平成7)年10月9日初版第5刷発行
底本の親本:「泉鏡花全集」岩波書店
1940(昭和15)年発行
初出:「新小説」
1913(大正2)年7月
※ルビは新仮名とする底本の扱いにそって、ルビの拗音、促音は小書きしました。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志
校正:川山隆
2009年5月10日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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