。後の烏三羽、身を開いて一方に翼を交わしたるごとく、腕を組合せつつ立ちて視《なが》む。
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初の烏 (うら若き女の声にて)寝たよ。まあ……だらしのない事。人間、こうはなりたくないものだわね。――そのうちに目が覚めたら行《ゆ》くだろう――別にお座敷の邪魔にもなるまいから。……どれ、(樹の蔭に一むら生茂《おいしげ》りたる薄《すすき》の中より、組立てに交叉《こうさ》したる三脚の竹を取出《とりいだ》して据え、次に、その上の円《まろ》き板を置き、卓子《テェブル》のごとくす。)
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後の烏、この時、三羽《みッつ》とも無言にて近づき、手伝う状《さま》にて、二脚のズック製、おなじ組立ての床几《しょうぎ》を卓子の差向いに置く。
初《はじめ》の烏、また、旅行用手提げの中より、葡萄酒《ぶどうしゅ》の瓶を取出だし卓子の上に置く。後の烏等、青き酒、赤き酒の瓶、続いてコップを取出だして並べ揃う。
やがて、初の烏、一|挺《ちょう》の蝋燭《ろうそく》を取って、これに火を点ず。
舞台|明《あかる》くなる。

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