烏を透かして、まあ。――画《え》に描いた太陽《おひさま》の夢を見たんだろう。何だか謎のような事を言ってるわね。――さあさあ、お寝室《ねま》ごしらえをしておきましょう。(もとに立戻りて、また薄《すすき》の中より、このたびは一領の天幕《テント》を引出し、卓子《テェブル》を蔽《おお》うて建廻す。三羽の烏、左右よりこれを手伝う。天幕の裡《うち》は、見ぶつ席より見えざるあつらえ。)お楽《たのし》みだわね。(天幕を背後《うしろ》にして正面に立つ。三羽の烏、その両方に彳《たたず》む。)
 もう、すっかり日が暮れた。(時に、はじめてフト自分の他《ほか》に、烏の姿ありて立てるに心付く。されどおのが目を怪《あやし》む風情。少しずつ、あちこち歩行《ある》く。歩行くに連れて、烏の形動き絡《まと》うを見て、次第に疑惑《うたがい》を増し、手を挙ぐれば、烏等も同じく挙げ、袖を振動かせば、斉《ひと》しく振動かし、足を爪立つれば爪立ち、踞《しゃが》めば踞むを透《すか》し視《なが》めて、今はしも激しく恐怖し、慌《あわただ》しく駈出《かけいだ》す。)
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帽子を目深《まぶか》に
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