し且禮儀が無ければならぬ。芝居の立※[#「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11]りにしたところが其目的は「投げられた、投げる」といふにあるのだから如何に寫實を觀せるとした處で投げられても觀客の方に向つて褌を見せなくつてもよろしい、投げられる時にバツクの方へ向うて轉べば可いのである。作物も是れと同じで、假に此處に十日以上も病床に惱んで窶れ果てた女を描くとしても前に申した通り人に讀ませ且見せるものであるから一應お湯をつかはせて病床に寢かせて置きたい、如何にお湯をつかはせても病人は病人である、それから美人とは書くものの其の起居振舞に際し妙な厭に匂がする樣なものを描いて滿足してゐる人がある。這※[#「麻/(ノ+ム)」、第4水準2−94−57]事《こんなこと》は作者として餘程注意せなければならぬと思ふ。夫から今度は時刻と場所の關係だ、室内に二人の人物が居て實にしめやかな話しをして居るのにも拘らず室外は豪雨が降つて夫に風さへ混じる外面《そと》の景色を書いては釣合が取れない。外で暴風雨《あらし》がして居るのなら、其樣に内に居る人物にも外面に適合した樣な話をさせ、且つ行爲を演ぜさせねばならぬ。而し
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