、御用がおあんなさいますッて。」
「うんや、善くないてや。お前様が行く気でも、私《わし》が留めます。お嬢様の御用とって、お前、医者じゃあなし、駕籠屋《かごや》じゃあなし、差迫った夜の用はありそうもない。大概の事は夜が明けてからする方が仕損じが無いものじゃ。若いものは、なおさら、女じゃでの、はて、月夜に歩いてさえ、美しい女の子は色が黒くなるという。」
「はい、ですけれども。」
「殊に闇《やみ》じゃ、狼が後《あと》を跟《つ》けるでの、たって止《や》めにさっせえよ。」と委細は飲込んだ上、そこらへ見当を付けたので、婆さんは聞えよがし。
 島野は耐えかねてずッと出て、老人《としより》には目も遣らず、
「さあ、」
「…………」黙って俯向《うつむ》く。
「おい、」とちと大きくいって、洋杖《ステッキ》でこと、こと、こと。
 お雪は覚悟をした顔を上げて、
「それじゃあお婆さん。」
「待たっせえ、いや、もし、お前様、もし、旦那様。」
 顧みもせず島野は、己《おれ》ほどのものが、へん、愚民にお言葉を遣わさりょうや!
 婆さんも躍気《やっき》になって、
「旦那様、もし。」
「おれか。」
「へい、婆《ばば》がお
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