と、まるで嬲《なぶ》るようなもんじゃあないか。女の癖に、第一失敬ださ。」
と、声を鋭く判然《はっきり》と言い放つ。言葉の端には自《おのず》から、かかる田舎にこうして、女の手に養われていらるべき身分ではないことが、響いて聞える。
「そんな心懸《こころがけ》じゃあ盲目《めくら》の夫の前で、情郎《いろおとこ》と巫山戯《ふざけ》かねはしないだろう。厭《いや》になったらさっぱりと突出すが可いじゃあないか、あわれな情《なさけ》ないものを捕《つかま》えて、苛《いじ》めるなあ残酷だ。また僕も苛められるようなものになったんだ、全くのこッた、僕はこんな所にお前様《まえさん》ほどの女が居ようとは思わなんだ。気の毒なほど深切にされる上に、打明けていえば迷わされて、疾《はや》く身を立てよう、行末を考えようと思いながら、右を見ても左を見ても、薬屋の金持か、せいぜいが知事か書記官の居る所で、しかも荒物屋の婆さんや近所の日傭取《ひやとい》にばかり口を利いて暮すもんだからいつの間にか奮発気がなくなって、引込思案になる所へ、目の煩《わずらい》を持込んで、我ながら意気地はない。口へ出すのも見《みッ》ともないや。お前さんに
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