た位だろうよ。東京理科大学の標本室には、加賀の白山《はくさん》で取ったのと、信州の駒《こま》ヶ嶽《たけ》と御嶽《おんたけ》と、もう一色《ひといろ》、北海道の札幌で見出《みだ》したのと、四通り黒百合があるそうだが、私はまだ見たことはなかった。
お雪さん、そしてその花を欲しいというお嬢さんは、どういう考えで居るんだね。」
「はい、あのこないだからいつでもお頼みなさいますんでございますが、そういう風に御存じのではないのですよ。やっぱり私達が、名を聞いております通《とおり》、芝居でいたします早百合《さゆり》姫のことで、富山には黒百合があるッていうから、欲しい、どんな珍らしい花かも知れぬ。そして仏蘭西《フランス》にいらしった時、大層御懇意に遊ばした、その方もああいうことに凝っていらっしゃるお友達に、由緒を書いて贈りたいといってお騒ぎなんでございます。お請合《うけあい》はしませんけれども、黒百合のある処は解っておりますからとそう言って参りましたが、太閤記に書いてあります草双紙のお話のような、それより外|当地《ここ》でもまだ誰も見たものはないのでございますから、どうかしら、怪しいと存じました。それ
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