》に止《や》んで、黒雲《くろくも》の絶間《たえま》に月が出ていた。湯の谷の屋根に処々《ところどころ》立てた高張の明《あかり》が射《さ》して、眼《ま》のあたりは赤く、四方へ黒い布を引いて漲《みなぎ》る水は、随処、亀甲形《きっこうがた》[#「亀甲形」は底本では「亀申形」]に畝《うね》り畝り波を立てて、ざぶりざぶりと山の裾へ打当てる音がした。拓を背にし、お雪を頸《うなじ》に縋らせて、滝太郎は面《おもて》も触《ふ》らず件《くだん》の洞穴《ほらあな》を差して渡ったが、縁を下りる時、破屋《あばらや》は左右に傾いた。行くことわずかにして、水は既に肩を浸した。手を放すなといって滝太郎が水を含んで吐いた時、お雪は洪水《みず》の上に乗上って、乗着いて、滝太郎に頬摺したが、
「拓さん堪忍して。」

 声を残して、魚《うお》の跳《おど》るがごとく、身を飜《ひるがえ》して水に沈んだ。遥かにその姿の浮いた折から、荒物屋の媼《ばば》なんど、五七人乗った小舟を漕寄《こぎよ》せたが、流れて来る材木がくるりと廻って舷《ふなばた》を突いたので、船は波に乗って颯《さっ》と退《ひ》いた。同時に滝太郎の姿も水に沈んだが、たちまち
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