ざいます処へ、またお馬に召した立派な若様がお立寄でございました。あのお倉さんというのが、それはもうこれ見よがしで、私《わたくし》は居ても立ってもいられません。あんまり悔しゅうございますから、どんなにお叱り遊ばしても宜《よ》うございます、お見懸け申しましてお願い申します。助けると思召して後生でございます、私《わたくし》どもへ。」
 とおろおろ声で泣くようにいう。
「おや、じゃああのお茶屋の姉さんかい。」
「はい、さようでございます。」
「それでは御馳走をしてくれますか、」と背後《うしろ》の腕車《くるま》で微笑みながらいったのは、米が姫様《ひいさま》と申上げた、顔立も風采《ふうさい》もそれに叶《かな》った気高いのが、思懸けず気軽である。
 女はかえって答もなし得ず、俯向《うつむ》いてただお辞儀をした。
「それじゃ若衆《わかいしゅ》さん。」
「おう、鍵屋だぜ。」
「あい、遣《や》んねえ。」
 車夫は呼交わしてそのまま曳出《ひきだ》す。米は前へ駆抜けて、初音《はつね》はこの時にこそ聞えたれ。横着《よこづけ》にした、楫棒《かじぼう》を越えて、前なるがまず下りると、石滝|界隈《かいわい》へ珍しい白
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