いろいろ》な四角いものだの、丸いものだの、削った爪の跡だの、朱だの、墨だので印がつけてあるだろう、どうだい、これを記念《かたみ》に置いて行こうか。」

       四十一

 折から白髪天窓《しらがあたま》に菅《すげ》の小笠《おがさ》、腰の曲ったのが、蚊細《かぼそ》い渋茶けた足に草鞋《わらじ》を穿《は》き、豊島茣蓙《としまござ》をくるくると巻いて斜《ななめ》に背負《しょ》い、竹の杖を両手に二本突いて、頤《おとがい》を突出して気ばかり前《さき》へ立つ、婆《ばばあ》の旅客が通った。七十にもなって、跣足《はだし》で西京の本願寺へ詣《もう》でるのが、この辺りの信者に多いので、これは飛騨《ひだ》の山中《やまなか》あたりから出て来たのが、富山に一泊して、朝がけに、これから加州を指して行《ゆ》くのである。
 お兼は黙って遣過《やりす》ごして、再び欄干の爪の跡を教えた。
「これはね、皆《みんな》仲間の者が、道中の暗号《めじるし》だよ。中にゃあ今|真盛《まっさかり》な商売人のもあるが、ほらここにこの四角な印をつけてあるのが、私が行ってこれから逢おうという人だ、旧《もと》海軍に居た将官《たいしょう》だね
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