もこっちが豪《えら》いんじゃあねえ。島野ッてね、あのひょろ長え奴が意気地なしで、知事を恐《こわ》がっていやあがるから、そこが附目《つけめ》よ。俺《おいら》に何か言われちゃあ、後で始末が悪いもんだから、同類の芋虫まで、自分で宥《なだ》めて連れて行ったまでのこッた。敵《むこう》が使ってる道具を反対《あべこべ》にこっちで使われたんだね、別なこたあねえ、知事様がお豪いのでござりますだ。」といって事も無げに笑った。
「それじゃあ滝さん、毒をもって毒を制するとやらいうのかい。」
「姉《ねえ》や、お前《めえ》学者だなあ、」
「旦那、御串戯《ごじょうだん》もんですよ。」と斉《ひと》しく笑った。
 身装《みなり》は構わず、絞《しぼり》のなえたので見すぼらしいが、鼻筋の通った、眦《めじり》の上った、意気の壮《さかん》なることその眉宇《びう》の間に溢《あふ》れて、ちっともめげぬ立振舞。わざと身を窶《やつ》してさるもののように見らるるのは、前《さき》の日総曲輪の化榎《ばけえのき》の下で、銀流しを売っていた婦人《おんな》であって――且つ少《わか》かりし時、浅草で滝太郎に指環を与えた女賊白魚のお兼である。もとより
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