み》と隠していたのを、つい見透かされたもんだから、罪なことをすると思って、一刻に訳も分らないで、悪いことをいった。知ってる、僕は自分|極《ぎ》めかも知らないが、お前さんの心は知ってる意《つもり》だ。情無い、もう不具根性《かたわこんじょう》になったのか、僻《ひがみ》も出て、我儘《わがまま》か知らぬが、くさくさするので飛んだことをした、悪く思わないでおくれ。」
その平生《ふだん》の行《おこない》は、蓋《けだ》し無言にして男の心を解くべきものがあったのである。お雪は声を呑んで袂に食着いていたのであるが、優しくされて気も弛《ゆる》んで、わっと嗚咽《おえつ》して崩折《くずお》れたのを、慰められ、賺《すか》されてか、節も砕けるほど身に染みて、夢中に躙《にじ》り寄る男の傍《そば》。思わず縋《すが》る手を取られて、団扇は庭に落ちたまま、お雪は、潤んだ髪の濡れた、恍惚《うっとり》した顔を上げた。
「貴方《あなた》、」
「可いよ。」
「あの、こう申しますと、生意気だとお思いなさいましょうが、」
「何、」
「お気に障りましたことは堪忍して下さいまし、お隠しなさいますお心を察しますから、つい口へ出してお尋ね申すことも出来ませんし、それに、あの、こないだ総曲輪でお転びなすった時、どうも御様子が解りません、お湯にお入りなさいましたとは受取り難《にく》うございますもの、往来ですから黙って帰りました。が、それから気を着けて、お知合のお医者様へいらっしゃるというのは嘘で、石滝のこちらのお不動様の巌窟《いわや》の清水へ、お頭《つむり》を冷《ひや》しにおいでなさいますのも、存じております。不自由な中でございますから、お怨み申しました処で、唯今《ただいま》はお薬を思うように差上げますことも出来ませんが、あの……」
と言懸けて身を正しく、お雪はあたかも誓うがごとくに、
「きっとあの私が生命《いのち》に掛けましても、お目の治るようにして上げますよ。」と仇気《あどけ》なく、しかも頼母《たのも》しくいったが、神の宣託でもあるように、若山の耳には響いたのである。
「気張っておくれ、手を合わして拝むといっても構わんな。実に、何だ、僕は望《のぞみ》がある、惜《おし》い体だ。」といって深く溜息を吐《つ》いたのが、ひしひしと胸に応《こた》えた。お雪は疑わず、勇ましげに、
「ええ、もう治りますとも。そして目が開いて立派な
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