、額を押え、
「や、天狗が礫《つぶて》を打ちゃあがる。」
雨三粒降って、雲間に響く滝の音が乱れた。風一陣!
四十八
「女中さん、降って来そうでございます、姫様《ひいさま》におっしゃって、まあ、お休みなさいましな」と米は程合《ほどあい》を見計らう。
「ああ、そういたしましょうねえ、お嬢様。」
黙って敏活の気の溢《あふ》れた目に、大空を見ておわした姫様は、これに頷《うなず》いて御入《おんいり》があろうとする。道はもとより、馬丁《べっとう》義作続いて島野まで、長いものに巻かれた形で、一群《ひとむれ》になって。米は鍵屋あって以来の上客を得た上に、当の敵《あいて》の蔵屋の分二名まで取込んだ得意想うべく、わざと後を圧《おさ》えて、周章《あわ》てて胡乱々々《うろうろ》する蔵屋の女《むすめ》に、上下《うえした》四人をこれ見よがし。
「お懸けなさいまし、」と高らかに謂った。
蔵屋の倉は堪《たま》りかねて、睨《ね》めながら米を摺抜《すりぬ》けて、島野に走り寄った。
「旦那様、若衆様《わかいしさん》とお二方は、どうぞ私《わたくし》どもへお帰りを願いとう存じます。」
「そうだ、忘れ物もあるし後で寄るよ。」
「はい、お忘物はこちらへ持って参りましても宜《よろ》しゅうございます。申兼ねますがどうぞいらっしゃって下さいまし、拝むんでございます、あの、後生になるのでございます。」
「可いじゃあないか、何も後《のち》にだってよ。」
義作が仔細《しさい》を心得て、
「競争をしてるんでさ、評判なんで。おい、姉さん、御主人様がこちらへお褥《しとね》が据《すわ》るから、あきらめねえ、仕方がねえやな。いえさ、気の毒だ、私《わっし》あ察するがね、まあ堪忍しなさい。」
「それでもどうぞ姫様にお願い遊ばして。」
「何をいうんですよ、馬鹿におしなさいねえ。」
と米は傍《かたわら》から押隔てると、敵手《あいて》はこれなり、倉は先《せん》を取られた上に、今のお懸けなさいましで赫《かッ》となっている処。
「止してくれ、人、身体《からだ》に手なんぞ懸けるのは、汚《けが》れますよ。」
「何を癩《かったい》が。」
「磔《はりつけ》め。」と角目立《つのめだ》ってあられもない、手先の突合《つつきあ》いが腕の掴合《つかみあ》いとなって、頬の引掻競《ひっかきくら》。やい、それと声を懸けるばかりで、車夫も、馬丁
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