、とこういうことです。実はと訳をいって、お金子《かね》は預けておこうとすると、それは本人へ直《じか》にといって承知しません。無理もないと引返して、夜も寝ないで今朝、起きがけに行くともう居ないんです。また婆さんが出て、昨夜《ゆうべ》は帰りました、その事をいって聞かせると、なおのことそのお情《なさけ》に預《あずか》っては、きっと取って来て差上げずにはと、留めるのも肯《き》かないで行ったといいます。
 ええ、何の知事様から下さるものを、家一つ戴いて何程《どれほど》の事があろう、痩我慢《やせがまん》な行過ぎだと、小腹が立って帰りましたが、それといって棄てておかれぬ、直ぐにといってお嬢様が、ちょうどまたお加減が悪い処、かれこれして遅くなりましたけれども、お体のお厭《いと》いもなく遠方をお出懸けになったのに、まあ飛んだことをしちまったんでございますねえ。」
 と道は落着かず胡乱々々《うろうろ》する。
 一同顔を見合せた。
 義作一名にやりにやり
「可《よ》うがす、何、大概大丈夫でしょう、心配はありますまいぜ。諺《ことわざ》にも何でさ、案ずるより産むが易いって謂《い》いまさ。」
「何だね、お前さん。」とそこどころではない、道は窘《たしな》めるがごとくにいった。
 義作あえてその(にやり)なるものを止《や》めず。
「いえ、女ってえものは、またこれがその柔よく剛を制すといった形でね。喧嘩にも傍杖《そばづえ》をくいません、それが証拠にゃあ御覧《ごろう》じろ、人ごみの中でもそんなに足を蹈《ふみ》つけられはしねえもんだ。」
「ちょいとお黙り。高慢なことをお言いでない、お嬢様がいらっしゃるよ。」
「ですからさ、そっちにお嬢様がいらっしゃりゃ、こっちにゃあまた滝公、へん、滝の野郎てえ豪傑がついてまさ。」
「あれだもの。」
「どうでえ阿魔、一言もあるめえ恐入ったか。」
「義作さん可《いい》加減におしな。お嬢様は御心配を遊ばしていらっしゃるんですよ。」
「だから、その御心配には及びますめえッてこった。難かしい事《こた》あない、娘《あま》さい無事なら可いんでしょう。そこは心得てまさ、義作が心得たといっちゃあ、馬に引摺《ひきず》られたからとあって御信仰が薄いでしょうが、滝大明神が心得てついてます。今も島野さんに承わりゃ、あとからついて入んなすったそうで、何、またあの豪傑が行きさえすりゃ、」といいかけて
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