や》い。今頃はもう二股《ふたまた》を半分越したろう、と小窓に頬杖《ほおづえ》を支《つ》いて嘲笑《あざわら》った。
 縁《えん》の早い、売口《うれくち》の美《い》い別嬪《べっぴん》の画《え》であった。主《ぬし》が帰って間《ま》もない、店の燈許《あかりもと》へ、あの縮緬着物《ちりめんぎもの》を散らかして、扱帯《しごき》も、襟《えり》も引《ひっ》さらげて見ている処《ところ》へ、三度笠《さんどがさ》を横っちょで、てしま茣蓙《ござ》、脚絆穿《きゃはんばき》、草鞋《わらじ》でさっさっと遣《や》って来た、足の高い大男が通りすがりに、じろりと見て、いきなり価《ね》をつけて、ずばりと買って、濡《ぬ》らしちゃならぬと腰づけに、きりりと、上帯《うわおび》を結び添えて、雨の中をすたすたと行方《ゆくえ》知れずよ。……
「分ったか、お婆々《ばば》。」と言った。

       十

 断念《あきら》めかねて、祖母《としより》が何か二ツ三ツ口を利くと、挙句《あげく》の果《はて》が、
「老耄婆《もうろくばばあ》め、帰れ。」
 と言って、ゴトンと閉めた。
 祖母《としより》が、ト目を擦《こす》った帰途《かえりみち》。本
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