あなた》が御当人なのですか。」
などと間伸《まのび》のした、しかも際立《きわだ》って耳につく東京の調子で行《や》る、……その本人は、受取口から見た処《ところ》、二十四、五の青年で、羽織《はおり》は着ずに、小倉《こくら》の袴《はかま》で、久留米《くるめ》らしい絣《かすり》の袷《あわせ》、白い襯衣《しゃつ》を手首で留めた、肥った腕の、肩の辺《あたり》まで捲手《まくりで》で何とも以《もっ》て忙しそうな、そのくせ、する事は薩張《さっぱり》捗《はかど》らぬ。態《なり》に似合わず悠然《ゆうぜん》と落着済《おちつきす》まして、聊《いささ》か権高《けんだか》に見える処《ところ》は、土地の士族の子孫らしい。で、その尻上がりの「ですか」を饒舌《しゃべ》って、時々じろじろと下目《しため》に見越すのが、田舎漢《いなかもの》だと侮《あなど》るなと言う態度の、それが明《あきら》かに窓から見透《みえす》く。郵便局員|貴下《きか》、御心安《おこころやす》かれ、受取人の立田織次《たつたおりじ》も、同国《おなじくに》の平民である。
さて、局の石段を下りると、広々とした四辻《よつつじ》に立った。
「さあ、何処《どこ》へ
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