い方ではないて、薄気味《うすきみ》の悪い北叟笑《ほくそえみ》をして、
(何をしてござる、ご修行の身が、このくらいの暑《あつさ》で、岸に休んでいさっしゃる分ではあんめえ、一生懸命《いっしょうけんめい》に歩行《ある》かっしゃりや、昨夜《ゆうべ》の泊《とまり》からここまではたった五里、もう里へ行って地蔵様を拝まっしゃる時刻じゃ。
何じゃの、己《おら》が嬢様に念《おもい》が懸《かか》って煩悩《ぼんのう》が起きたのじゃの。うんにゃ、秘《かく》さっしゃるな、おらが目は赤くッても、白いか黒いかはちゃんと見える。
地体並《じたいなみ》のものならば、嬢様の手が触《さわ》ってあの水を振舞《ふるま》われて、今まで人間でいようはずがない。
牛か馬か、猿か、蟇《ひき》か、蝙蝠《こうもり》か、何にせい飛んだか跳《は》ねたかせねばならぬ。谷川から上って来さしった時、手足も顔も人じゃから、おらあ魂消《たまげ》たくらい、お前様それでも感心に志《こころざし》が堅固《けんご》じゃから助かったようなものよ。
何と、おらが曳《ひ》いて行った馬を見さしったろう。それで、孤家《ひとつや》へ来さっしゃる山路《やまみち》で富山
前へ
次へ
全102ページ中88ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング