ゃ。
 男滝の方はうらはらで、石を砕き、地を貫《つらぬ》く勢《いきおい》、堂々たる有様《ありさま》じゃ、これが二つ件《くだん》の巌に当って左右に分れて二筋となって落ちるのが身に浸《し》みて、女滝の心を砕く姿は、男の膝に取ついて美女が泣いて身を震《ふる》わすようで、岸に居てさえ体がわななく、肉が跳《おど》る。ましてこの水上《みなかみ》は、昨日《きのう》孤家《ひとつや》の婦人《おんな》と水を浴びた処と思うと、気のせいかその女滝の中に絵のようなかの婦人《おんな》の姿が歴々《ありあり》、と浮いて出ると巻込まれて、沈んだと思うとまた浮いて、千筋《ちすじ》に乱るる水とともにその膚《はだえ》が粉《こ》に砕けて、花片《はなびら》が散込むような。あなやと思うと更に、もとの顔も、胸も、乳も、手足も全《まった》き姿となって、浮いつ沈みつ、ぱッと刻まれ、あッと見る間にまたあらわれる。私《わし》は耐《たま》らず真逆《まっさかさま》に滝の中へ飛込んで、女滝をしかと抱いたとまで思った。気がつくと男滝の方はどうどうと地響《じひびき》打たせて。山彦《やまびこ》を呼んで轟《とどろ》いて流れている。ああその力をもってなぜ救
前へ 次へ
全102ページ中86ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング