うに見えたが、炉にくべた柴《しば》がひらひらと炎先《ほさき》を立てたので、婦人《おんな》はつと走って入る。空の月のうらを行くと思うあたり遥《はるか》に馬子歌《まごうた》が聞えたて。」
二十
「さて、それからご飯の時じゃ、膳《ぜん》には山家《やまが》の香《こう》の物、生姜《はじかみ》の漬《つ》けたのと、わかめを茹《う》でたの、塩漬の名も知らぬ蕈《きのこ》の味噌汁《みそしる》、いやなかなか人参《にんじん》と干瓢《かんぴょう》どころではござらぬ。
品物は侘《わび》しいが、なかなかのお手料理、餓《う》えてはいるし、冥加至極《みょうがしごく》なお給仕、盆を膝に構えてその上に肱《ひじ》をついて、頬《ほお》を支えながら、嬉《うれ》しそうに見ていたわ。
縁側に居た白痴《ばか》は誰《たれ》も取合《とりあわ》ぬ徒然《つれづれ》に堪《た》えられなくなったものか、ぐたぐたと膝行出《いざりだ》して、婦人《おんな》の傍《そば》へその便々《べんべん》たる腹を持って来たが、崩《くず》れたように胡坐《あぐら》して、しきりにこう我が膳を視《なが》めて、指《ゆびさし》をした。
(うううう、うううう。)
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