いて出たが、屈《かが》んで板縁《いたえん》の下を覗《のぞ》いて、引出したのは一足の古|下駄《げた》で、かちりと合《あわ》して埃《ほこり》を払《はた》いて揃《そろ》えてくれた。
(お穿《は》きなさいまし、草鞋《わらじ》はここにお置きなすって、)
私《わし》は手をあげて、一礼して、
(恐入ります、これはどうも、)
(お泊め申すとなりましたら、あの、他生《たしょう》の縁《えん》とやらでござんす、あなたご遠慮を遊ばしますなよ。)まず恐しく調子がいいじゃて。」
十二
「(さあ、私に跟《つ》いてこちらへ、)と件の米磨桶《こめとぎおけ》を引抱《ひっかか》えて手拭《てぬぐい》を細い帯に挟《はさ》んで立った。
髪は房《ふっさ》りとするのを束《たば》ねてな、櫛《くし》をはさんで簪《かんざし》で留《と》めている、その姿の佳《よ》さというてはなかった。
私《わし》も手早く草鞋を解《と》いたから、早速古下駄を頂戴《ちょうだい》して、縁から立つ時ちょいと見ると、それ例の白痴殿《ばかどの》じゃ。
同じく私《わし》が方《かた》をじろりと見たっけよ、舌不足《したたらず》が饒舌《しゃべ》るような、愚
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