ょっとお断り申しておかねばなりません。)
はっきりいわれたので私《わし》はびくびくもので、
(はい、はい。)
(いいえ、別のことじゃござんせぬが、私《わたし》は癖《くせ》として都の話を聞くのが病《やまい》でございます、口に蓋《ふた》をしておいでなさいましても無理やりに聞こうといたしますが、あなた忘れてもその時聞かして下さいますな、ようござんすかい、私は無理にお尋《たず》ね申します、あなたはどうしてもお話しなさいませぬ、それを是非にと申しましても断《た》っておっしゃらないようにきっと念を入れておきますよ。)
と仔細《しさい》ありげなことをいった。
山の高さも谷の深さも底の知れない一軒家の婦人《おんな》の言葉とは思うたが保つにむずかしい戒《かい》でもなし、私《わし》はただ頷《うなず》くばかり。
(はい、よろしゅうございます、何事もおっしゃりつけは背《そむ》きますまい。)
婦人《おんな》は言下《ごんか》に打解《うちと》けて、
(さあさあ汚《きたの》うございますが早くこちらへ、お寛《くつろ》ぎなさいまし、そうしてお洗足《せんそく》を上げましょうかえ。)
(いえ、それには及びませ
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