場《こせんぢやう》を指《さ》した時《とき》も、琵琶湖《びはこ》の風景《ふうけい》を語《かた》つた時《とき》も、旅僧《たびそう》は唯《たゞ》頷《うなづ》いたばかりである。
敦賀《つるが》で悚毛《おぞけ》の立《た》つほど煩《わづら》はしいのは宿引《やどひき》の悪弊《あくへい》で、其日《そのひ》も期《き》したる如《ごと》く、汽車《きしや》を下《お》りると停車場《ステーシヨン》の出口《でぐち》から町端《まちはな》へかけて招《まね》きの提灯《ちやうちん》、印傘《しるしかさ》の堤《つゝみ》を築《きづ》き、潜抜《くゞりぬ》ける隙《すき》もあらなく旅人《たびびと》を取囲《とりかこ》んで、手《て》ン手《で》に喧《かまびす》しく己《おの》が家号《やがう》を呼立《よびた》てる、中《なか》にも烈《はげ》しいのは、素早《すばや》く手荷物《てにもつ》を引手繰《ひツたぐ》つて、へい有難《ありがた》う様《さま》で、を喰《くら》はす、頭痛持《づゝうもち》は血《ち》が上《のぼ》るほど耐《こら》へ切《き》れないのが、例《れい》の下《した》を向《む》いて悠々《いう/\》と小取廻《ことりまはし》に通抜《とほりぬ》ける旅僧《た
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