たに違《ちが》ひはない。
尤《もつと》も衣服《きもの》を脱《ぬ》いで渡《わた》るほどの大事《おほごと》なのではないが、本街道《ほんかいだう》には些《ち》と難儀《なんぎ》過《す》ぎて、なか/\馬《うま》などが歩行《ある》かれる訳《わけ》のものではないので。
売薬《ばいやく》もこれで迷《まよ》つたのであらうと思《おも》ふ内《うち》、切放《きれはな》れよく向《むき》を変《か》へて右《みぎ》の坂《さか》をすた/\と上《のぼ》りはじめた。
見《み》る間《ま》に檜《ひのき》を後《うしろ》に潜《くゞ》り抜《ぬ》けると、私《わし》が体《からだ》の上《うへ》あたりへ出《で》て下《した》を向《む》き、
(おい/\、松本《まつもと》へ出《で》る路《みち》は此方《こつち》だよ、)といつて無雑作《むざふさ》にまた五六|歩《ぽ》。
岩《いは》の頭《あたま》へ半身《はんしん》を乗出《のりだ》して、
(茫然《ぼんやり》してると、木精《こだま》が攫《さら》ふぜ、昼間《ひるま》だつて用捨《ようしや》はねえよ。)と嘲《あざけ》るが如《ごと》く言《い》ひ棄《す》てたが、軈《やが》て岩《いは》の陰《かげ》に入《はい》つ
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