うり》がすた/\遣《や》つて来《き》て追着《おひつ》いたが。
 別《べつ》に言葉《ことば》も交《か》はさず、又《また》ものをいつたからといふて、返事《へんじ》をする気《き》は此方《こツち》にもない。何処《どこ》までも人《ひと》を凌《しの》いだ仕打《しうち》な薬売《くすりうり》は流盻《しりめ》にかけて故《わざ》とらしう私《わし》を通越《とほりこ》して、すた/\前《まへ》へ出《で》て、ぬつと小山《こやま》のやうな路《みち》の突先《とつさき》へ蝙蝠傘《かうもりがさ》を差《さ》して立《た》つたが、其《その》まゝ向《むか》ふへ下《お》りて見《み》えなくなる。
 其後《そのあと》から爪先上《つまさきあが》り、軈《やが》てまた太鼓《たいこ》の胴《どう》のやうな路《みち》の上《うへ》へ体《からだ》が乗《の》つた、其《それ》なりに又《また》下《くだ》りぢや。
 売薬《ばいやく》は先《さき》へ下《お》りたが立停《たちどま》つて頻《しきり》に四辺《あたり》を瞻《みまは》して居《ゐ》る様子《やうす》、執念深《しふねんぶか》く何《なに》か巧《たく》んだか、と快《こゝろよ》からず続《つゞ》いたが、さてよく見《み》
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