あ》げて向《むか》ふへ飛《と》んだ。
(お客様《きやくさま》が被在《ゐらつ》しやるではないかね、人《ひと》の足《あし》になんか搦《から》まつて贅沢《ぜいたく》ぢやあないか、お前達《まへだち》は虫《むし》を吸《す》つて居《ゐ》れば沢山《たくさん》だよ。
貴僧《あなた》ずん/\入《い》らつしやいましな、何《ど》うもしはしません。恁云《かうい》ふ処《ところ》ですからあんなものまで人懐《ひとなつか》うございます、厭《いや》ぢやないかね、お前達《まへだち》と友達《ともだち》を見《み》たやうで可愧《はづかし》い、あれ可《い》けませんよ。)
蟇《ひき》はのさ/\と又《また》草《くさ》を分《わ》けて入《はい》つた、婦人《をんな》はむかふへずいと。
(さあ此《こ》の上《うへ》へ乗《の》るんです、土《つち》が柔《やはら》かで壊《く》へますから地面《ぢめん》は歩行《ある》かれません。)
いかにも大木《たいぼく》の僵《たふ》れたのが草《くさ》がくれに其《そ》の幹《みき》をあらはして居《ゐ》る、乗《の》ると足駄穿《あしだばき》で差支《さしつか》へがない、丸木《まるき》だけれども可恐《おそろ》しく太《ふと》いので、尤《もつと》もこれを渡《わた》り果《は》てると忽《たちま》ち流《ながれ》の音《おと》が耳《みゝ》に激《げき》した、それまでには余程《よほど》の間《あひだ》。
仰《あふ》いで見《み》ると松《まつ》の樹《き》はもう影《かげ》も見《み》えない、十三|夜《や》の月《つき》はずつと低《ひく》うなつたが、今《いま》下《お》りた山《やま》の頂《いただき》に半《なか》ばかゝつて、手《て》が届《とゞ》きさうにあざやかだけれども、高《たか》さは凡《およ》そ計《はか》り知《し》られぬ。
(貴僧《あなた》、此方《こちら》へ。)
といつた、婦人《をんな》はもう一|息《いき》、目《め》の下《した》に立《た》つて待《ま》つて居《ゐ》た。
其処《そこ》は早《は》や一|面《めん》の岩《いは》で、岩《いは》の上《うへ》へ谷川《たにがは》の水《みづ》がかゝつて此処《ここ》によどみを造《つく》つて居《ゐ》る、川巾《かははば》は一|間《けん》ばかり、水《みづ》に望《のぞ》めば音《おと》は然《さ》までにもないが、美《うつく》しさは玉《たま》を解《と》いて流《なが》したやう、却《かへ》つて遠《とほ》くの方《はう》で凄《
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