従姉をいう)ならですけど、可厭《いや》よ、私、こんな処で、腰掛けて一杯なんぞ。」
「大丈夫。いくら好きだって、蕃椒《とうがらし》では飲めないよ。」
と言った。
市場を出た処の、乾物屋と思う軒に、真紅《まっか》な蕃椒が夥多《おびただ》しい。……新開ながら老舗《しにせ》と見える。わかめ、あらめ、ひじきなど、磯《いそ》の香も芬《ぷん》とした。が、それが時雨でも誘いそうに、薄暗い店の天井は、輪にかがって、棒にして、揃えて掛けた、車麩《くるばぶ》で一杯であった。
「見事なものだ。村芝居の天井に、雨車を仕掛けた形で、妙に陰気だよ。」
串戯《じょうだん》ではない。日向《ひなた》に颯《さっ》と村雨が掛《かか》った、薄《すすき》の葉摺《はず》れの音を立てて。――げに北国の冬空や。
二人は、ちょっとその軒下へ入ったが、
「すぐ晴れますわ、狐の嫁入よ。」
という、斜《ななめ》に見える市場の裏羽目に添って、紅蓼《べにたで》と、露草の枯れがれに咲いて残ったのが、どちらがその狐火《きつねび》の小提灯《こじょうちん》だか、濡々《ぬれぬれ》と灯《とも》れて、尾花に戦《そよ》いで……それ動いて行く。
「そうか
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