やくねつ》の天《てん》、塵《ちり》紅《あか》し、巷《ちまた》に印度《インド》更紗《サラサ》の影《かげ》を敷《し》く。赫耀《かくえう》たる草《くさ》や木《き》や、孔雀《くじやく》の尾《を》を宇宙《うちう》に翳《かざ》し、羅《うすもの》に尚《な》ほ玉蟲《たまむし》の光《ひかり》を鏤《ちりば》むれば、松葉牡丹《まつばぼたん》に青蜥蜴《あをとかげ》の潛《ひそ》むも、刺繍《ぬひとり》の帶《おび》にして、驕《おご》れる貴女《きぢよ》の裝《よそほひ》を見《み》る。盛《さかん》なる哉《かな》、炎暑《えんしよ》の色《いろ》。蜘蛛《くも》の圍《ゐ》の幻《まぼろし》は、却《かへつ》て鄙下《ひなさが》る蚊帳《かや》を凌《しの》ぎ、青簾《あをすだれ》の裡《なか》なる黒猫《くろねこ》も、兒女《じぢよ》が掌中《しやうちう》のものならず、髯《ひげ》に蚊柱《かばしら》を號令《がうれい》して、夕立《ゆふだち》の雲《くも》を呼《よ》ばむとす。さもあらばあれ、夕顏《ゆふがほ》の薄化粧《うすげしやう》、筧《かけひ》の水《みづ》に玉《たま》を含《ふく》むで、露臺《ろだい》の星《ほし》に、雪《ゆき》の面《おもて》を映《うつ》す、姿
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