刀《たち》を佩反《はきそ》らし、七草《なゝくさ》の里《さと》に若菜《わかな》摘《つ》むとて、讓葉《ゆづりは》に乘《の》つたるが、郎等《らうどう》勝栗《かちぐり》を呼《よ》んで曰《いは》く、あれに袖形《そでかた》の浦《うら》の渚《なぎさ》に、紫《むらさき》の女性《によしやう》は誰《た》そ。……蜆《しゞみ》御前《ごぜん》にて候《さふらふ》。

      二月《にぐわつ》

 西日《にしび》に乾《かわ》く井戸端《ゐどばた》の目笊《めざる》に、殘《のこ》ンの寒《さむ》さよ。鐘《かね》いまだ氷《こほ》る夜《よ》の、北《きた》の辻《つじ》の鍋燒《なべやき》饂飩《うどん》、幽《かすか》に池《いけ》の石《いし》に響《ひゞ》きて、南《みなみ》の枝《えだ》に月《つき》凄《すご》し。一《ひと》つ半鉦《ばん》の遠《とほ》あかり、其《それ》も夢《ゆめ》に消《き》えて、曉《あかつき》の霜《しも》に置《お》きかさぬる灰色《はひいろ》の雲《くも》、新《あたら》しき障子《しやうじ》を壓《あつ》す。ひとり南天《なんてん》の實《み》に色鳥《いろどり》の音信《おとづれ》を、窓《まど》晴《は》るゝよ、と見《み》れば、ちら/\
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