と薄雪《うすゆき》、淡雪《あはゆき》。降《ふ》るも積《つも》るも風情《ふぜい》かな、未開紅《みかいこう》の梅《うめ》の姿《すがた》。其《そ》の莟《つぼみ》の雪《ゆき》を拂《はら》はむと、置《おき》炬燵《ごたつ》より素足《すあし》にして、化粧《けはひ》たる柴垣《しばがき》に、庭《には》下駄《げた》の褄《つま》を捌《さば》く。

      三月《さんぐわつ》

 いたいけなる幼兒《をさなご》に、優《やさ》しき姉《あね》の言《い》ひけるは、緋《ひ》の氈《せん》の奧《おく》深《ふか》く、雪洞《ぼんぼり》の影《かげ》幽《かすか》なれば、雛《ひな》の瞬《またゝ》き給《たま》ふとよ。いかで見《み》むとて寢《ね》もやらず、美《うつく》しき懷《ふところ》より、かしこくも密《そ》と見參《みまゐ》らすれば、其《そ》の上《うへ》に尚《な》ほ女夫《めをと》雛《びな》の微笑《ほゝゑ》み給《たま》へる。それも夢《ゆめ》か、胡蝶《こてふ》の翼《つばさ》を櫂《かい》にして、桃《もゝ》と花菜《はなな》の乘合《のりあひ》船《ぶね》。うつゝに漕《こ》げば、うつゝに聞《き》こえて、柳《やなぎ》の土手《どて》に、とんと當《あた
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