よ。
何でも、そこで、お上《かみ》さんに聞いて来た、とそう言いなすったようでしたっけ……すたすた二階へお上《あが》りでございました。)
さ、耳の疎《うと》いというものは。
(どこの人よ、)
とお三輪が擦寄って、急込《せきこ》んで聞く。
(どこのお婆さんですか。)
(お婆さんなの、ちょいと……)
私たちが訊《たず》ねたい意《こころ》は、お三輪もよく知っている。闇《くら》がり坂以来、気になるそれが、爺《じじ》とも婆《ばば》とも判別《みわけ》が着かんじゃないか。
(でしょうよ、はあ、……余程《よっぽど》の年紀《とし》ですから。)
(いいえさ、年寄だってね、お爺さんもお婆さんもありますッさ。)
(それがね、それですがね三輪ちゃん。)
と頭《かぶり》を掉《ふ》って、
(どっちだかよく分りません。背《せい》の低い、色の黄色|蒼《あお》い、突張《つっぱ》った、硝子《ビイドロ》で張ったように照々《てらてら》した、艶《つや》の可《い》い、その癖、随分よぼよぼして……はあ、手拭《てぬぐい》を畳んで、べったり被《かぶ》って。)
女たちは、お三輪と顔を見合わせた。
(それですが、どうかしましたか。
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