合わせて、ただその三つの灯《ともしび》となる。
 中のどれかが、折々|気紛《きまぐ》れの鳥影の映《さ》すように、飜然《ひらり》と幕へ附着《くッつ》いては、一同の姿を、種々《いろいろ》に描き出す。……
 時しもありけれ、魯智深が、大《おおい》なる挽臼《ひきうす》のごとき、五分刈頭を、天井にぐるりと廻して、
「佐川さんや、」
 と顔は見えず……その天井の影が動く。話の切目で、咳《しわぶき》の音も途絶えた時で、ひょいと見ると誰の目にも、上にぼんやりと映る、その影が口を利くかと思われる。従って、声もがッと太く渦巻く。
「変に静まりましたな、もって来いという間《ま》の時じゃ、何ぞお話し下さらんか。宵からまだ、貴下《あなた》に限って、一ツも凄《すご》いのが出ませんでな、所望ですわ。」
 成程、民弥は聞くばかりで、まだ一題も話さなかった。
「差当り心当りが無いものですから、」
 とその声も暗さを辿《たど》って、
「皆さんが実によく、種々《いろいろ》な可恐《おそろし》いのを御存じです。……確《たしか》にお聞きになったり、また現に逢《あ》ったり見たりなすっておいでになります。
 私は、又聞きに聞いたのだ
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