だ時分は固《もと》より、今夜なども木《こ》の葉《は》の落溜《おちたま》つたやうに方々から吹寄《ふきよ》せる客が十人の上もあらう。……其だと蔵屋の人数《にんず》ばかりでは手が廻りかねる。時とすると、膳《ぜん》、家具、蒲団《ふとん》などまで、此方《こっち》から持運《もちはこ》ぶのだ、と云ふのが、頃刻《しばらく》して美人《たおやめ》の話で分つた。
「家も此方《こっち》が立派ですね。」
「えゝ、暴風雨《あらし》の時に、蔵屋は散々に壊れたんですつて……此方《こちら》は裏に峰があつたお庇《かげ》で、旧《もと》のまゝだつて言ひますから……」
「其だに何故《なぜ》客が来ないんでせう。」
「貴下《あなた》、何もお聞きなさいませんか。」
「はあ。」
沢は実は其段《そのだん》心得《こころえ》て居た、為に口籠《くちごも》つた。
「お化《ばけ》が出ますとさ。」
痩《やせ》ぎすな顔に、清《きよ》い目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つて、沢を見て微笑《ほほえ》んで云つた。
「嘘でせう。」
「まあ、泊つて御覧なさいませんか。」
はじめは串戯《じょうだん》らしかつたが、後《のち》は真個《まった
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