目にかかります。いいえ、留めないで。いいえ、差当った用がござんす。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから2字下げ]
思切りよくフイと行《ゆ》くを、撫子|慌《あわただ》しく縋《すが》って留《とど》む。白糸、美しき風のごとく格子を出でてハタと鎖《とざ》す。撫子指を打って悩む。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
欣弥 (続いて)私は、俺《おれ》は、婦《おんな》の後へは駈出《かけだ》せない、早く。
撫子 (ややひぞる。)
欣弥 早く、さあ早く。
撫子 (門《かど》を出で、花道にて袖を取る)太夫さん……姉さん。
白糸 お放し!
撫子 いいえ。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から1字上げ]大正五(一九一六)年二月



底本:「泉鏡花集成7」ちくま文庫、筑摩書房
   1995(平成7)年12月4日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第二十六巻」岩波書店
   1942(昭和17)年10月15日第1刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志
校正:忠夫今井
2003年8月31日作成
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