かく、まあ、母に逢って下さい、お位牌《いはい》に逢っておくれ。撮写《うつす》のは嫌だ、と云って写真はくれず、母はね、いまわの際まで、お友さん、姉さま、と云ってお前に逢いたがった。(声くもる)そして、現《うつつ》に、夢心《ゆめごこち》に、言いあてたお前の顔が、色艶《いろつや》から、目鼻立まで、そっくりじゃないか。さあ。(位牌を捧げ、台に据う。)
白糸 (衣紋《えもん》を直し、しめやかに手を支《つか》う)お初に……(おなじく声を曇らしながら、また、同じように涙ぐみて、うしろについ居る撫子を見て、ツツと位牌を取り、胸にしかと抱いて、居直って)お姑様《しゅうとさん》、おっかさん、たとい欣さんには見棄てられても、貴女にばかりは抱《だき》ついて甘えてみとうござんした。おっかさん、私ゃ苦労をしましたよ。……御修業中の欣さんに心配を掛けてはならないと何にも言わずにいたんです。窶《やつ》れた顔を見て下さい。お友、可哀想に、ふびんな、とたった一言《ひとこと》。貴女がおっしゃって下さいまし。お位牌を抱けば本望です。(もとへ直す)手も清めないで、失礼な、堪忍して下さいまし。心が乱れて不可《いけ》ません。またお
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