見詰む。)
撫子 (身を辷《すべ》らして、欣弥のうしろにちぢみ、斉《ひと》しく手を支《つ》く。)
白糸 (横を向く。)
欣弥 暑いにつけ、寒いにつけ、雨にも、風にも、一刻もお忘れ申した事はない。しかし何より、お健《すこやか》で……
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白糸、横を向きつつ、一室の膳に目をつける。気をかえ煙草《たばこ》を飲まんとす。火鉢に火なし。
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白糸 火ぐらいおこしておきなさいなね、芝居をしていないでさ。
欣弥 (顔を上げながら、万感胸に交々《こもごも》、口|吃《きっ》し、もの云うあたわず。)
撫子 (慌《あわただ》しく立ち、一室なる火鉢を取って出づ。さしよりて)太夫さん。
白糸 私は……今日は見物さ。
欣弥 おい、お茶を上げないかい。何は、何は、何か、菓子は。
撫子 (立つ。)
白糸 そんなに、何も、お客あつかい。敬して何とかってしなくっても可《よ》うござんす。お茶のお給仕なら私がするわ。
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勝手に行《ゆ》くふり、颯《さっ》と羽織を脱ぎか
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