と、腹ごなしに娑婆《しゃば》へ出て来て、嫁御にかき[#「かき」に傍点]餅でも焼いてやらしゃれ。(目をこすりつつ撫子を見る)さて、ついでに私《わし》の意気になった処を見され、御同行《ごどうぎょう》の婆々どのの丹精じゃ。その婆々どのから、くれぐれも、よろしゅうとな。いやしからば。
村越 (送り出す)是非|近々《ちかぢか》に。
七左 おんでもない。晩にも出直す。や、今度は長尻《ながちり》長左衛門じゃぞ。奥方、農産会に出た、大糸瓜の事ではない、はッはッはッ。(出て行《ゆ》く。)
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村越座に帰る。
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撫子 (鬢《びん》に手をあて、悄《しお》れて伏す)旦那様、済みません。
村越 お互の中にさえ何事もなければ、円髷《まげ》も島田も構うものか。
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この間に七左衛門花道の半ばへ行《ゆ》く、白糸出づ。
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白糸 (行違い、ちょっと小腰)あ、もし、旦那。
七左 ほう、私《わし》
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