殺したとかいう……その裁判があるのでございますか」
 髭は再びこなたを振り向きて、
「そう、ちょっとおもしろい裁判でな」
 渠は話児《はなし》を釣るべき器械なる、渠が特有の「へへえ」と「なるほど」とを用いて、しきりにその顛末《てんまつ》を聞かんとせり。乙者《おつ》も劣らず水を向けたりき。髭ある人の舌本《ぜっぽん》はようやく軟《やわら》ぎぬ。
「賊はじきにその晩|捕《や》られた」
「こわいものだ!」と甲者《こう》は身を反《そ》らして頭《かしら》を掉《ふ》りぬ。
「あの、それ、南京《ナンキン》出刃打ちという見世物な、あの連中の仕事だというのだがね」
 乙者《おつ》は直ちにこれに応ぜり。
「南京出刃打ち? いかさま、見たことがございました。あいつらが? ふうむ。ずいぶん遣《や》りかねますまいよ」
「その晩橋場の交番の前を怪しい風体のやつが通ったので、巡査が咎《とが》めるとこそこそ遁《に》げ出したから、こいつ胡散《うさん》だと引っ捉《とら》えて見ると、着ている浴衣《ゆかた》の片袖《かたそで》がない」
 談ここに到《いた》りて、甲と乙とは、思わず同音に嗟《うめ》きぬ。乗り合いは弁者の顔を※[#「
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