ら》えなき内儀の項《うなじ》を、出刃にてぺたぺたと拍《たた》けり。内儀は魂魄《たましい》も身に添わず、
「は、は、はい、はい、は、はい」
「さあ、早くしておくれ。たんとは要《い》らないんだ。百円あればいい」
 内儀はせつなき呼吸《いき》の下より、
「金子《かね》はあちらにありますから。……」
「あっちにあるならいっしょに行こう。声を立てると、おいこれだよ」
 出刃庖丁は内儀の頬《ほお》を見舞えり。渠はますます恐怖して立つ能《あた》わざりき。
「さあ早くしないかい」
「た、た、た、ただ……いま」
 渠は立たんとすれども、その腰は挙《あ》がらざりき。されども渠はなお立たんと焦《あせ》りぬ。腰はいよいよ挙がらず。立たざればついに殺されんと、渠はいとど慌《あわ》てつ、悶《もだ》えつ、辛くも立ち起がりて導けり。二間《ふたま》を隔つる奥に伴いて、内儀は賊の需《もと》むる百円を出だせり。白糸はまずこれを収めて、
「内君、いろいろなことを言ってきのどくだけれど、私の出たあとで声を立てるといけないから、少しの間だ、猿轡《さるぐつわ》を箝《は》めてておくれ」
 渠は内儀を縛《いまし》めんとて、その細帯を解
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