理に留めないけれども……」
 このとき両箇《ふたり》の眼《まなこ》は期せずして合えり。
「そうしてお母《かあ》さんには?」
「道で寄って暇乞《いとまご》いをする、ぜひ高岡を通るのだから」
「じゃ町はずれまで送りましょう。若衆さん、もう一台ないかねえ」
「四、五町行きゃいくらもありまさあ。そこまでだからいっしょに召していらっしゃい」
「お巫山戯《ふざけ》でないよ」
 欣弥はすでに車上にありて、
「車夫《くるまや》、どうだろう。二人乗ったら毀《こわ》れるかなあ、この車は?」
「なあにだいじょうぶ。姉《ねえ》さんほんとにお召しなさいよ」
「構うことはない。早く乗った乗った」
 欣弥は手招けば、白糸は微笑《ほおえ》む。その肩を車夫はとんと拊《う》ちて、
「とうとう異《おつ》な寸法になりましたぜ」
「いやだよ、欣さん」
「いいさ、いいさ!」と欣弥は一笑せり。
 月はようやく傾きて、鶏声ほのかに白し。

       四

 滝の白糸は越後の国|新潟《にいがた》の産にして、その地特有の麗質を備えたるが上に、その手練の水芸は、ほとんど人間|業《わざ》を離れて、すこぶる驚くべきものなりき。さればいたる
前へ 次へ
全87ページ中49ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング