るがごとく言い放てり。
「要らないよ」
「そうおっしゃらずにお召しなすって。へへへへへ」
「なんだね、人をばかにして。一人《いちにん》乗りに同乗《あいのり》ができるかい」
「そこはまたお話合いで、よろしいようにしてお乗んなすってください」
おもしろ半分に※[#「夕/寅」、第4水準2−5−29]《まつわ》るを、白糸は鼻の端《さき》に遇《あしら》いて、
「おまえもとんだ苦労性だよ。他《ひと》のことよりは、早く還《かえ》って、内君《うちの》でも悦《よろこ》ばしておやんな」
さすがに車夫もこの姉御の与《くみ》しやすからざるを知りぬ。
「へい、これははばかり様。まああなたもお楽しみなさいまし」
渠は直ちに踵《きびす》を回《めぐ》らして、鼻唄《はなうた》まじりに行き過ぎぬ。欣弥は何思いけん、
「おい、車夫《くるまや》!」とにわかに呼び住《と》めたり。
車夫《しゃふ》は頭《かしら》を振り向けて、
「へえ、やっぱりお合い乗りですかね」
「ばか言え! 伏木《ふしき》まで行くか」
渠の答うるに先だちて、白糸は驚きかつ怪しみて問えり。
「伏木……あの、伏木まで?」
伏木はけだし上都《じょうと》の
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