第4水準2−81−91]《みまわ》して、
「皆さん、なんと思し召す? こりゃ尋常事《ただごと》じゃありませんぜ。ばかを見たのはわれわれですよ。全く駈《か》け落ちですな。どうもあの女がさ、尋常《ただ》の鼠《ねずみ》じゃあんめえと睨《にら》んでおきましたが、こりゃあまさにそうだった。しかしいい女だ」
「私は急ぎの用を抱《かか》えている身《からだ》だから、こうして安閑《あんかん》としてはいられない。なんとこの小僧に頼んで、一匹の馬で遣《や》ってもらおうじゃございませんか。ばかばかしい、銭を出して、あの醜態《ざま》を見せられて、置き去りを吃《く》うやつもないものだ」
「全くそうでごさいますよ。ほんとに巫山戯《ふざけ》た真似《まね》をする野郎だ。小僧早く遣ってくんな」
奴《やっこ》は途方に暮れて、曩《さき》より車の前後に出没したりしが、
「どうもおきのどく様です」
「おきのどく様は知れてらあ。いつまでこうしておくんだ。早く遣ってくれ、遣ってくれ!」
「私にはまだよく馬が動きません」
「活《い》きてるものの動かないという法があるものか」
「臀部《けつっぺた》を引《ひ》っ撲《ぱた》け引っ撲け」
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